山崎直子宇宙飛行士×セメダイン技術者「宇宙でやろうよ、モノづくり」後編


CEMEDINE presents HAKUTO スペシャル対談(第8回)

スペースシャトルで15日間の宇宙飛行を行った山崎直子さんと、HAKUTOのローバーに使われた接着剤を開発したエンジニア岡部祐輔さんの対談、後編です。「宇宙で見てはいけないものを見た?」というびっくり話から、宇宙工場で働く未来まで。山崎さんの「宇宙で物づくり」への期待が伝わってきます!

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宇宙到着後に蚊がぶ~ん!

okabe見てはいけないものを見てしまったことは? すみません、ミーハーで‥。

yamazakiいえいえ。ご期待にそえなくて申し訳ないですが(笑)、残念ながら見ていない。見たかったですけどね。初期の宇宙飛行士の中にはUFOを見たと証言している人もいますが、おそらく見間違いではないかといわれています。ただ、スペースシャトルには貨物室があって、宇宙到着後に貨物室のドアを開いた時に、蚊がぷーんと出てきたというミッションがありました。

okabe宇宙まで生きていたことに驚きですよね!

yamazakiもしかしたら見間違えの可能性もありますが・・。ヨーロッパが意図的にやった実験で、クマムシという体長1㎜ぐらいの生き物を宇宙空間に曝露させ生き延びたという結果が出て、すごいなと。宇宙では冬眠状態に入って生き延びて、地上に戻ると活動を再開する。そういうのを見ると、生き物がほかの天体にもいそうだなという気がします。

5国際宇宙ステーションにドッキングしたスペースシャトル。(提供:NASA)

 

okabeバイオ系にはイノベーションが起こる環境ですよね。宇宙って。

yamazaki遺伝子が同じだけれど、宇宙に行くことで機能が変わってくるという例もいくつかあります。線虫は宇宙では活動をおさえて寿命が延びるそうです。今まで生物学は地球環境での進化の過程を研究してきましたが、宇宙にいくと生命の普遍的な根源にせまることができそうです。地球は宇宙の中で、一つのローカルな環境にすぎない。生命はもっと広い環境に適応できる潜在能力があるんだろうな、と思います。

 

物づくりは宇宙で。「Made on the MOON」の時代へ

okabe「宇宙に入院」とかってあるかもしれない。

yamazakiそうですね。脳に損傷がある方が、ある程度は地上の医療で生きることができるけれど、重力での荷重のために20歳の壁を超えることが難しいと聞いたことがあります。無重力の環境なら治療方法が見つかるかもしれない。また無重力状態では歩かないですむので、足が不自由な人にとってはハンディにならない。

hayashi3宇宙の方が快適かもしれないですね。そういえば、金井飛行士が宇宙で身長が9㎝伸びたと話題になりましたね。結局間違いでしたが(笑)。山崎さんはどうでしたか?

yamazaki3㎝伸びました。だいたい2~5㎝なんです。9㎝ってすごいなとびっくりしてましたが、やはり計測ミスだったようですね。

hayashi33㎝伸びると腰とか背中に痛みはでませんか?

yamazaki宇宙にいるときは痛まなかったのですが、地上に帰って元の身長に戻ったあと股関節が数か月間、痛かったですね。地上に再適応するほうが時間がかかって大変だなと思いました。無重力はすぐ慣れて、本当に楽しいんですよ。岡部さんは宇宙に行ってみたいなという思いは?

2010年4月17日、宇宙から帰還直後の山崎直子さん(提供:NASA)

 

okabeもちろんあります。宇宙で物づくりをするライン現場に立ち会いたい。月面とか。

yamazakiいいですね!私もすごく共感したのが、アマゾンCEOのジェフ・ベソスさんが、シンポジウムで宇宙に工場や発電所を持って行くことで地球の環境を守りたいと言われていたんです。本当にそうだなと。物づくりの現場は、これから宇宙になるかもしれない。

okabeたとえば月なら重力が地上の六分の一ですよね。重力が小さいところならではの物づくりってあると思う。HAKUTOの母体であるispaceさんは月を経済圏にするというビジョンを出されているじゃないですか。それが本当になるなら月に工場が立つだろうし、行きたいですね。

yamazaki現地で必要なものは、現地で生産する時代に入るはずですよね。

okabeトラブルを起こして、めっちゃ怒られるかも(笑)

yamazaki「Made in Space」、「Made on the Moon」の時代ですね。

 

月に是非、皆さんの思いと共に行って欲しい。

 

7月面から見た三日地球。(提供:NASA)

 

okabe宇宙開発の現状はどう感じていらっしゃいますか?日本の宇宙開発の国家予算は他国と比べるとものすごく少ない。さらに民間企業だと、ビジネスになるかならないか、というところからスタートするのでなかなか手を出しづらい。今回、HAKUTOさんから(接着剤開発を)お声がけ頂いたんですけど、たぶん皆さん断ってきたんだろうなと思っていて(笑)。大企業でも挑戦しにくい風土があることって悩ましいなと。

yamazaki仰る通り、みなさん悩んでいるなと思います。大企業はチャレンジしたいという思いはあるものの、社内で新規事業を立ち上げる難しさもあるかと思います。スタートアップも増えていますが、日本ではまだ宇宙関連は数10社ぐらいですね。これからが正念場です。今、宇宙に挑戦している会社は、もともと宇宙のことがわかっている方たちが中心です。もっと広げるには宇宙が専門ではない人たちが参入してこないといけなくて、これからなんですよね。

HAKUTOチームはすごくいい先陣をきっていらっしゃる。実績を作ることができると、やってみようという企業が増えてくるのではないかと思う。リーダー的なプレッシャーもあるとは思いますが、期待も大きいです。

hayashi3岡部さんはHAKUTOプロジェクトに関わったご経験を今後どういかしていきたいですか?

okabeやれることはいっぱいあると思います。結局、宇宙開発は人の営みなので。人を大切にすることはセメダインの企業理念であって、やらない理由はない。セメダインは会社として大きくもなく小さくもなく、それなりの実績も評価頂いていてちょうどいい。我々が宇宙に向けたものづくりを引っ張るというか、そういう場に立っていてもいいのかなと個人的に思います。

yamazaki嬉しいですね。

okabe逆に、山崎さんが民間企業に期待されることは?

yamazaki今まで宇宙産業というとJAXAが発注して、インテグレーションする大企業がいて、システムや部品を提供する企業がいて、という階層型でした。これからはそれをサークル状にしていこうと動いています。JAXA、大企業、スタートアップ、大学や研究機関などいろんな人たちを、もう少しフラットな形で取り込んでいきましょうという方向です。

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yamazaki宇宙開発では国の事業だけでなく、純民間のプロジェクトがたくさん立ち上がってきています。企業の皆さんにはまずアンテナを張って頂きたい。宇宙は特殊なイメージがまだまだ強いかもしれませんが、物づくりは(地上と)共通する部分もたくさんあります。宇宙も視野にいれて、壁をあまり作らずにフラットに意見交換できたらいいなと。内閣府ではスペース・ニューエコノミー創造ネットワーク(S-NET)、JAXAにも新規事業の窓口があり、様々なネットワークがあります。ぜひ参加してほしいです。

hayashi3気になるのが、昨年末は宇宙ゴミ除去に挑むアストロスケール社の衛星がロケット側の失敗で軌道投入できなかったり、HAKUTOのローバーは完成したのにロケット打ち上げが間に合わず月レースが終了したりと、自分の担当でないところでなかなかうまくいかないことで、もどかしいです。

yamazakiそうですね。いずれも外国のロケットという点がもどかしさを感じる一因です。小型の人工衛星や探査機を日本がどんどん作っている中で、それぞれに適した輸送系が出てきてほしいと痛切に思います。

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yamazakiそもそも宇宙のプロジェクトは自分たちではコントロールがきかないところがあって、それでも責任は負わないといけない。逆に言えばリスク分散が大事です。たとえばこのロケットが打ち上げられなかったら、こっちでやろうとか。予備機を残しておこうとか。リスクはあるものだと想定して、システムインテグレーションする。ただ、ギリギリのところで挑戦しているので、マージンを取ることが難しい状況になりがちです。鍛えられる現場だと思います。

hayashi3なるほど。リスク分散ですね。ただHAKUTOは賞金が目的ではない、レースが終了しても月に挑戦すると言ってますね。

okabeそれですよね!一個人の想いというか夢がのっかっている。それを大事にしてくれるだけで泣きそうですよね。

hayashi3でも、実際に関わったローバーSORATOには、月面を走ってほしいですよね?

okabeもちろんその希望はありますけど、HAKUTOチームの皆さんとふれ合えただけでも、私としては財産です。そのあとの彼らの構想も聞いていますし。

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yamazakiispaceさんは100億円を超える資金調達に成功して、独自でランダー(月着陸船)の開発をしますよね。月に是非、皆さんの思いと共に行って欲しいし、行くだろうと期待しています。諦めないで欲しい。岡部さんはランダー開発は?

okabeもちろんやりたいです。

yamazakiセメダインさんにはISS(国際宇宙ステーション)でも、ぜひ接着剤の実験をしてほしいですね。JAXAのオープンラボ制度などを利用して、宇宙船内と船外の両方で実験をやってみるとか。せっかく宇宙仕様の接着剤を開発されたので、いろんな場で実証して頂きたいと思います。

okabeそれが本当の開発というか、一つの区切りと思います。使われてなんぼなので。ただ、自分は宇宙に行ったことがないので現場を想像するしかない。やっぱり自分が見たものを信じるという、エンジニアの性みたいなものがあります。

yamazaki「なんでそのスペックなんだろう」と思いますよね。

 

宇宙飛行士も国から民間へ!?

いつか、月に人が住み、物づくりを行う時代が始まるかもしれない。(提供:NASA)

 

okabeやはり、行かないと。宇宙飛行士になるための条件は今どうなってますか?

yamazaki大学で理系分野を学んだあとに3年間の実務経験が必要というのが一番大きいです。身体の条件についてはあまり高血圧でなければ。視力も厳しく問われないですし、虫歯があっても大丈夫です。最近は宇宙に長期滞在することになるので心理テストがありますね。忍耐力と協調性が必要です。

okabe視力を問わないのはいいですね。

yamazakiレーシック手術も認められまたし、メガネやコンタクトも使えます。これからは国の宇宙飛行士だけではなくて、民間が独自に宇宙飛行士を募集するかもしれない。アメリカでは既にそういう動きです。

okabeなるほど。宇宙の工場で仕事をするまで、私は健康でいないといけない!

yamazaki宇宙でも地産地消で現地で作っていく時代になると、地球の環境にとらわれない物づくりが始まりますね。現地で作ることができると、ロケットのフェアリングに収まる必要もないので、形や大きさの制限もなくなります。今、ISSの実験棟があの大きさになっているのはロケットに入れるための制限があるからです。そうした制約をとりはらって考えられる物づくりは面白いと思います。

okabe今日はヒントがいっぱいありました。ぜひ宇宙で開発をやってみたいですよね。会社が許すかどうかわかりませんけど、アポロ世代の熱い上司がいるので大丈夫でしょう(笑)。

yamazakiアポロ世代からスペースシャトル世代、そしてHAKUTO世代に引き継いで、ぜひ宇宙でのものづくりを始めてください!

 


山崎直子(やまざきなおこ)
1970年千葉県松戸市生まれ。1996年東京大学大学院宇宙工学専攻修正過程を終了後、NASDA(現JAXA)に入社。2001年、宇宙飛行士に認定される。2010年4月、スペースシャトル・ディスカバリー号による15日間の宇宙飛行に参加。2011年8月にJAXA退職後は内閣府宇宙政策委員や女子美術大学客員教授などを務める。著書に「夢をつなぐ」(角川書店)など多数。


岡部祐輔(おかべゆうすけ)
1981年生まれ。大学では有機化学を専攻し超分子を研究。2007年セメダインに入社。主力商品である弾性接着剤「スーパーX」全般の担当技術者。HAKUTOプロジェクトにセメダイン担当技術者として参加。近年は、常温で硬化が可能な導電性接着剤を開発。接着剤そのもので回路形成と部品実装ができ、電気を通しながらくっつけるニーズに対応できる接着剤として注目を集めている。http://cemed.in/sxeca/


林公代(はやしきみよ)
ライター。 神戸大学文学部卒業。(財)日本宇宙少年団情報誌編集長を経てフリーランスに。宇宙・天文分野中心に執筆。世界のロケット発射、天文台など取材歴20年以上。著書「宇宙遺産138億年の超絶景!!」「宇宙においでよ!」(野口聡一宇宙飛行士と共著)等。https://gravity-zero.jimdo.com/